日本音楽療法学会
第8号 日本音楽療法学会ニュース
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国家資格について
国家資格化への現状
国家資格推進委員会 委員長 村井靖児

1) 現在の状況
日本音楽療法学会が誕生してから、学会が事業の上位に位置付け、執行部が全力を挙げて取り組んできた音楽療法士の国家資格化の動きが、一部役員の反対にあい、いま破綻寸前の事態に追い込まれている。学会の意思統一ができていないという理由から、これまで音楽療法推進議員連盟(議連) が当学会と共同歩調で行ってきた交渉から、手を引こうとしているのである。
もしこの事態が回復できないものだとすると、国家資格化が目指してきた、音楽療法を少しでも早く経済的な裏付けをもって実施できるようにするという国家資格化の意図は、虚しく消え去ることになる。

2) 音楽療法の有効性
音楽療法は最初から、見切り発車であることが言われて来た。それはアメリカの音楽療法のスタートの時期にもあったし、日本で音楽療法を私たちが推進しようと思い立ったときにもあった。そのことについては、私自身も何回か文章に書いている。それは音楽療法が医学的に果たして効果があるのだろうかということだった。
国家資格化の今回の議連との交渉の中で、一番問題になったのは、音楽療法の有効性と、音楽療法士の専門性、そして音楽療法士の国家資格化の必要性についてである。有効性については、学会全員が確信しているところであるが、いざ証拠を具体的に示すようにと言われると、裏付けとなる事実的根拠が余りにも少ないことに仰天する。証拠が明らかになるように論文が書かれていないのである。今後現在の学会発表の内容を含めた論文の書き方の厳密な検討が必要である。

3) 音楽療法士の専門性
次に音楽療法士の専門性とは何かという議連からの問いだが、それに対して学会が提示した解答は、全くお粗末なものであったと反省している。それは、「使う手段が音楽である点と、その音楽を、アセスメント―計画―実行―評価という行為を繰り返しながら進めること」であると述べている。音楽療法士の専門性とは、最終的には音楽家だという自覚なのだ。声楽家であれ、器楽演奏家であれ、また音楽学校を卒業しなくても、ポピュラー、クラシックを問わず、すべての音楽ジャンルにおいて、自分は音楽家だと自覚していることが、音楽療法士の専門性にとってどうしても必要だと考えられる。
その上で、その音楽家としての能力を、心を悩む人のために一生捧げようと、自分をそこに投げ入れていることが肝心である。つまり好い加減な気持ちで、仕事の傍ら音楽療法していくのではなく、その人たちのために一生を賭け、対象について知り、またその人たちがどうしたら喜び、どうしたら心が楽になり、どうしたら様々な機能が円滑に行えるように音楽を役立てられるかを、真剣に相手を見ながら実行していける人達のことを指している。この点は、音楽療法士としての資質に大きく関わっている。
古来音楽療法のエピソードの中には、多くの名演奏家が名を連ねている。彼らの演奏が名演奏であったことは間違いのないことであり、それが音楽療法たり得たのは、彼らの持って生まれた、相手のために、あるいは相手と共に、音楽をする姿勢であったに違いない。音楽療法士は自分の音楽に対する自信と愛がなければならないし、相手に役立ちたいという真摯な気持ちがなければならない。
繰り返すことになるが、自分の音楽の能力を、障害者、または様々な事で心を悩ます人たちのために用いることを決意した人であることが、音楽療法士の要件であり、それが専門性なのである。音楽療法士は音楽家の片手間の仕事ではなく、それを職業としていなければならない。そこに作業療法士との違いがあり、また他の職種の人たちが行う音楽活動との違いがある。
そのために、音楽療法士は, 自己の音楽性を高めなければならず、その努力をしていく熱意を常に失ってはならない。また音楽を対象のために音楽の使い方を工夫する時間を惜しんではならない。その場合、音楽療法にピアノとギターが有用だという神話は打破した方がよいのかもしれない。音楽療法は、対象の心の状態に合わせることが大事なのであり、その合わせ方には、様々なレベルと種類がある。それは特定の楽器であることは問わない 。

4) 国家資格化の必要性
今回の学会の一連の動きを分析すると、一部の理事だけで交渉チームを作り、議連との作業をしていたということへの怒りがあった。しかし議連との交渉にはそれに専念できる少数の人数で当る必要があったし、また実際交渉チームの活動は、理事会で承認された学会の重要な事業の一つであった。そしてもっとも重要なことは、この議連との仕事を成功させなければ国家資格は当分やってこないという判断があった。その当分というのは、10年とか20年というものではなく、もっと長いスパンを指している。その認識は今でも変わっていない。
また国家資格を待ち望む何千人もの人たちの熱い期待があることを念頭においていた。日本のようにすべてを点数化で割り切って行く医療福祉サービス制度の中では、国家資格を取ることは、職業として安定化させるための最も有効な道筋であり、また音楽療法を広め、音楽療法を高める早道である。この点が、音楽療法が国家資格を必要とする理由である。しかもそのことを議連が積極的に後押ししてくれていることに感謝をしていた。
しかし実際に法律として形にしていくためには、多くのハードルがある。メスで病巣を取り除くように、薬で病原を取り除くように、病気を治すことに音楽が直接的に関わっているかどうか(医療資格としての要件) は、とことん考えていくと自信がもてなかった。
次ぎに診療補助として役立つのか、ここが一番肝心な部分だが、ここでも「直接」という言葉のハードルがある。たとえば理学療法なら、リハビリをやらなければ社会復帰が出来ない。放置すればみすみす回復する運動機能も回復しないままに終わってしまう。それは明らかに直接的な診療の補助として役立っている。そのような例を音楽療法から拾い出そうとすると、一部の子どもの領域、昏睡の回復の現場など、二、三の領域以外では、なかなか見つからなかった。生命に関して、あるいはその後の日常の生活に対して、音楽がなかったら回復できなかっただろうと結論し得るような事例には巡り会えることが余りにも少ないのである。
心が楽になることによって得られる効果は幾らでも探すことが出来る。しかしそれは音楽が心に働きかけ、心が楽になる結果、感情的に安定し、その結果、「間接」的に出てくる効果だと考えるのが自然である。そのような間接的な効果では、診療補助としての面でも、医療職としての資格は与えられないのである。

5) 立法化できるところから一歩ずつ
そのような状況の中で、医療資格としての資格をごり押しすることは、国家資格化そのものを実現不能に導くだけであると判断した。そこで交渉チームとしては、すでに理事会で確認されていたことであったが、医療資格としての国家資格は断念し、福祉の資格で進めることになる経過を、確認の意味で理事会に報告した。
交渉チームの判断としては、1歩後退であれ2歩後退であれ、現実の厳しい認識から、国家資格を勝ち取る目的のために、もしそれ以外に方法が無いのだとすれば、その点で妥協せねばならないと考えており、また学会の意見があれば、法案成立後も運用についての整備の余地が残されていると感じていた。
これについて理事会はゴーサインを出したが、その時から、評議員の中から反対の火が噴出した。そして交渉チームのあらゆる動きがけん制され、逆に阻止運動があからさまに、しかも議員に直接陳情するという方法で行なわれ始めた。その現状は、倉敷での総会で多くの会員がご覧になった通りである。
しかし事態をつきつめて客観的に眺めるなら、今の段階では医療資格は無理であり、また現在の医療界のあり方では、今後同じ考えでは、国家資格の可能性はないのだと結論しても決して誤りではない。
大多数の音楽療法は、医療と福祉の狭間の領域で行なわれている。その現実を冷静に見極め、立法化できるところから一つずつ実行して行くのが現実的なやり方ではないだろうか。音楽療法の恩恵を願っている人たちは、その普通のところに一番たくさんいる。彼らは身体的、精神的不自由を抱え、日常生活を耐えている。その人達への支援を学会としてはまず優先し、またそこが音楽療法士の仕事の大部分を占めるところであることから、その人たちのための資格化を優先することが、学会としての責務ではないかと信じている。

6) おわりに
再度強調するが、国家資格化の道はいま殆ど閉ざされかけている。議連が国家資格を応援してくれていたこれまでの状況がどんなに得難いものであったか、痛感している。今それが一気に音を立てて崩れそうになっている時、その余りの損失の大きさを思い知らされるのである。
議連の前会長斎藤十朗氏が、福島豊議連事務局長と共に、苦心して作られた法案要綱に基づく国家資格を、会員の皆様が了解するかどうか、近日中に行なわれるアンケートで、率直な考えを述べて頂きたい。結論的には、資格を得ることを望むか否かという一点に集約される。
会員の皆様のご理解とご協力を切にお願いしたい。
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