日本音楽療法学会
第9号 日本音楽療法学会ニュース
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音楽と絵画の世界の融合から生まれるもの
ジャズの歴史の中で突出した巨人と言えば、マイルス・デイビスだが、彼の個展がニューヨークのネリノ・ギャラリーで開かれた。
デイビスは1982年に心臓発作を体験したのち右手の自由がきかなくなり、そのリハビリテーションの過程で絵を描き始め、その結果が個展につながった。その絵画作品を見ると、いずれもが豊かな色彩と独自の形態によって、迫力あるものとなっている。つまりそこには彼の音楽がそのまま絵画表現となって、イメージを解放し、創造力豊かな生命感が躍動している。それはまさに音楽と絵画の世界の融合したものの現出であり、極めて興味深い表現となっている。また、この音楽と絵画という二大ジャンルの相関性についての検討に視点を当てて見るとパウル・クレーがあげられ、彼ほどその究明に多くの時間を割き、精力を傾けた者はいない。クレーの9000点を超える絵画や、遺された膨大な量の文章からこの問題に対する問いが発せられている。クレーは11歳のときにはすでに一人前のヴァイオリニストであり、ベルリン交響楽団のエキストラとして演奏する才能を発揮していた。クレーが芸術の経験として決定的に重要な影響を得たものは音楽体験であった。それは彼がヴァイオリンやヴィオラを弾き、それを職業的能力にまで鍛えあげたということではない。クレーにとっては音楽そのものの体験によって心と精神を確認し、自分の声を聴き認識することだったのである。クレー作品の制作特徴は、対位法、バリエーション、転回、十二音セリーなど、数学的・抽象的な形式に基礎が置かれている。つまり音楽の作曲法と合致しており、合理的に造形さ
れたそれらのフォルムが、音楽の場合と同様に内面的な気分や情動をかきたてる担い手となったのである。クレーの作品に即して彼の絵画の中の音楽性を見いだしてみよう。1909年に、ぺン・インクを用い水彩で、《困惑のピアニスト−風刺・現代音楽の戯画》を残している。クレーがピアニストを音楽になぞらえて、同時代の作曲家たちの行き過ぎをカリカチュアラィズしたものである。
大会長 岸本寿男 写真
顧問
徳田良仁

1930年には《リズミカルなもの》と題して油絵を描いている。格子状の色面がゆがんで、微妙な動きを表現している。クレーの蒼い時代のものは、ことに即興的なものとして、身体感覚の中にある音楽的リズム、音階などが絵画作品として示される。《ポリフォニー》(1932) は音楽と絵画の問題の全てを包含する解答を表現した作品であった。「自然に秩序づけられた運動は、肉眼でなく耳によってとらえられるものである」と述べ、絵画的表現より音楽的表現をいささか優位なものとして捉らえていると思えるのである。しかし、同時にクレーにとって、音楽と絵画とは同質に近く、また共時的な動因でもあり感覚でもあり、さらに表現するという行動として機能しているようである。彼の音楽的資質が絵画芸術に多大な影響を与えたというより、音楽と絵画
が多くの作品の中に表裏一体をなし、一つの完全な存在として提示されていると見なすべきものであろう。デイビスにしてもクレーにしても、もしも彼らに音楽がそして絵画がなかったらと考えると、音楽史も美術史も変更を強いられるかも知れない。また他にも多くの芸術家たちが、
心と精神の葛藤を己れの芸術を表現することで、現実とのバランスを保ち、作家として人間として生きざまを全うすることが可能であったことか。今日のわれわれの置かれている社会的・精神的状況のなかで、改めて“癒し”の力を考えてみる時、芸術のもつ力を強調したいと思う。人は誕生と同時に音という“言葉”を、そして“音楽”をもった、そして絵画に祈りを込めた。これらの融合するところに癒しの力が生まれるのである。医療の世界では、今日とくにEBM やら資格
認定やらと、病と治療と療法とに厳密な検証を提示することが要求されている。これは当然のことであろう。したがってわれわれも厳しい視座に立ち、多くの研鑽の上で、療法としての芸術のあり方を追求して行く姿勢を改めて再認識し、一層の治療としての技法の究明に力を尽くしたいと思う。
     
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