日本音楽療法学会
第27号 日本音楽療法学会ニュース
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音楽療法を医療・福祉領域に根づかせるための学会の取り組みについて
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常任理事
特別プロジェクト
研究特別委員長
村林 信行

私が音楽療法と関わりあうようになったのは大学を卒業してまもなくでした。

早いものでそろそろ30年になろうとしております。この間、普段は心療内科医として音楽療法を外から見ながら、一方では学会での活動を通して音楽療法士と日常的に接するという特殊なポジションで仕事をしていたように思います。このため、医師の発想法、音楽療法士の発想法について考える機会もしばしばありました。

医師は医療モデルで「病気を治す」ということを中心に考えます。薬物や手術などが主要な治療方法で、これらの方法でなかなかうまくコントロールできない病態は「治らないケース」ということで苦手意識を持ちがちです。慢性疾患の中には、「治らないケース」が数多く存在し、このようなケースに対して医師以外のコメディカルが担当する心理社会的治療でよいものがあれば是非任せたいという医師も数多くいます。認知症、統合失調症、うつ病の慢性期、児童・思春期の発達障害、心身症、緩和ケアなどでは心理社会的なアプローチの重要性が高く、今後音楽療法への期待が高まる可能性もあるかと私は考えています。

そこで問題になるのは、医療・福祉の領域で他の職種から音楽療法の効果が認められるためには、他の職種にもわかるような形で音楽療法の効果(エビデンス)を検証しなければならないのです。

音楽療法は本来はセラピストとクライエントの個々のやり取りに意味があるという側面があります。それゆえに音楽療法の介入を客観的に評価しようとすると、音楽療法のよい部分を拾いきれないのではないかという懸念も確かにあります。また薬の治験では医師も患者も誰が実際に効果のある薬を飲み、誰が偽薬を飲んでいるかわからない設定のもとに研究を進めます。しかし音楽療法では誰が音楽療法を受けて、誰が受けていないかは一目瞭然でわかります。この点も効果を客観的に証明するうえで弱点となります。さらには多数のケースを集めることが現実にはとても難しいのです。

上記の理由で音楽療法のエビデンスを整備するのが難しい事情がありました。

このような状況で、学会に何ができるか学術・研究委員会と国家資格推進委員会とで何度も話し合いがもたれました。医学や福祉の領域で音楽療法が足場を確保するためには、学会員が力を合わせてエビデンスを検証し、「音楽療法は○○の状態にある人々の△△を改善(軽減)する」というストーリーを作るために時限的な特別プロジェクト研究特別委員会(特プロ)を2012年に立ち上げました。

特プロでは、(1)現状ではクライエントの数が多く、今後も激増が見込まれること、(2)多くの音楽療法士が高齢者を対象にしていること、(3)国が今後さらに対策に力を入れると考えられることなどから高齢者を対象とした量的な研究を行うこととしました。

この際、「学会でなければできないことは何か」を考えた結果、多施設で共通のプロトコールを使用して音楽療法の効果を研究することになりました。

これまでの認知症に対する音楽療法の量的研究によれば、音楽療法はクライエントの不安を軽減する効果がありそうで、不穏など認知症の周辺症状(BPSD)にもある程度の効果が報告されております。

特プロでは2013年から予備研究を5施設(北海道、岩手、石川、東京、三重)で行いました。対象は要介護1までのケースで、2週に1回、3ヶ月間の音楽療法を行いました。この結果認知機能、日常生活機能、精神的健康度が改善しました(詳細は論文として報告予定)。

予備研究の結果から、音楽療法士が日常行っているセッションを尺度をつけて評価すれば、高齢者の身体・精神・認知・生活機能を向上する可能性が示されました。

この結果をふまえて、既に本研究がスタートしております。

本研究では、対象を選択するのに工夫をしました。国の政策として(1)今後さらに介護予防が重視されること、(2)今後要支援の人たちを支援する主体が国から市区町村に移行することなどから、健康(認知症発症前)な人から要支援の人を対象に設定しました。今後の国の政策に対して音楽療法が効果を証明できるようにするためです。

方法として、「対象の障害に対して音楽療法が有効である」 ことを証明するために無作為化比較試験(RCT)という方法を行います。これは音楽療法を行わない群を設定しますが、音楽療法士が事前に誰の音楽療法を行い、誰に行わないか決められない仕組みを作りました。

本研究は10施設合計100人を目標としておりますが、現在すでに6施設で研究が開始されております。

もう一つ学会が取り組んでいる事業に地域プロジェクトがあります。近年、高齢化と核家族化で地域のコミュニティの崩壊が進んでいます。高齢者や精神障がい者などがなるべく入院や入所をしないで地域で生活できるよう、音楽を人と人をつなげる目的で活用する試みです。本学会では村井副理事長が中心となり、現在世田谷区と共同してプログラムを考案しております。今後は現場で起こったことからどのような新しい音楽療法のアイデアが生まれるか注目していきたいものです。

急激に変化しつつある世の中を少しでも住みやすくするために、音楽療法が少しでも貢献できれば、それはとても夢のある話だと思います。音楽療法士が自分たちの仕事に誇りを持てるように、多くの人々の力を結集することがこれからますます大切になっていくように思います。

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