2008年2月20日 倫理委員会からのお知らせ
2005年度の大会の折に、「倫理上のご依頼」として、学会等での発表のおりには、対象者やその保護者から、学会等で発表する題目や発表の趣旨を文章に明記した上で、“同意書”をとることについてお知らせいたしました。
さらに、同意書が必要な範囲は、発表にかかわる音楽療法を実施している施設長の同意をはじめとして、同じ施設の中でさまざまなレベルで対象者にかかわっておられる他職種のスタッフの方々にも必要であることのお知らせもいたしました。
当然のことですが、共同で音楽療法を実践している場合には、そのスタッフ全員に、ご自身の発表の目的や発表の場所、日時、発表する内容やその趣旨などについて、十分な説明をして理解を得、さらに一方的ではない同意を得たうえで発表するという手続きが必要です。
会員各位におかれましては、このような手続きの他、倫理についてのますます十分なご配慮をいただいていることと拝察し感謝しております。
近年においては、たとえ大学におきましても、学生からアンケートをとる場合には、学内倫理委員会の承認の上で、対象となる学生に趣旨説明と、アンケート処理方法、その資料を発表する特定した場まで説明した上で、それに同意し協力するという学生からのみアンケートの協力を得るというのが普通のこととなっています。
このように個人情報保護の問題はますます厳しくなっています。倫理的配慮義務は、全国大会をはじめとし、支部大会、また各地で行われている研究会等の活動におきましても、まったく同等に必要なことです。今後ともますます大会や研究会の準備の上で、演題申し込みの時点における同意書の有無(対象者、保護者、あるいは実施している施設の長、共同研究者など)につきまして、よろしく十全の吟味のほどお願い申し上げます。
また、インフォームドコンセントにおいては、医療領域だけではなく、心理療法をはじめとしたさまざまな療法におきましても同様の義務があります。従って、音楽療法実践の日常業務として、対象者やその主たる保護者に対して、実施あるいは実施しようとしている音楽療法において何が期待できるのかについて、説明していく義務があります。
何を目的に設定しているか、そのためにどういう方法をもって、どのような成果をみるべくアプローチしているかについて、十分な説明をして、その同意を得ることがセラピー開始以前に必要になります。
また、その経過における評価についても、開示していく義務があります。こうした倫理的配慮についてのご相談は日常的にも必要なことであり、各支部の倫理委員会においても、継続したアドバイスのほどをよろしくお願い申し上げます。
あらためまして、対象者およびその家族の利益を守り、またプライバシー保護の義務の上で、なお一層のご配慮をお願いいたします。
また、インターネット時代、さまざまなレベルでのブログなどが盛んになっています。会員の中にも管理者としてブログの管理をしている方もあろうかと思います。本学会員の義務として、学会倫理綱領にのっとり、不適切なブログ記事につきましては、削除などの対応をよろしくお願いいたします。
音楽療法士の倫理―その最も基本的で大切な4点について―
- 一つ目は、「クライエントの人間性、人格を尊重し、クライエントの福利こそが、音楽療法士の最重要事項である」ということです。
クライエントを、自分の感情、自分の目的・利益の達成にまきこんではいけません。臨床家、研究者、音楽療法士 の養成・教育に関わる全ての人は皆、あくまでもクライエントに最高のサービスを提供するということに向けて、ベストを尽くすのです。 - 二つ目は、「クライエントの知る権利と、セラピストの 説明する責任を果たす」ということです。これは、インフォー ムドコンセント、直訳すれば、「情報が適切に与えられた うえでの同意」ということになります。
(1)セラピーというものは、セラピストがクライエントに 一方的に行うものではなく、クライエントとセラピス トが、それぞれの立場の違いを認め合いながら、共通 の理解のもとに相互に信頼し協力しあって行われるも ので、クライエントはこれから行われることに対して 適切に知らされ、それに対して自らの意思で、選択・ 決定する権利をもち、自発的に参加するパートナーで あるという考え方を前提としています。(2)そのため、まずはセラピーの開始以前にセラピストは 適切な量の情報を提供し、クライエントの心配事・関 心事・疑問点などに答える義務があります。
具体的には以下のようなことです。- 何を目的とし、そのためにどういう方法をもって行うのか。
- 費用。
- セッションの期間。
(長期にわたり可能なのか、回数、期間で終了になるのかなどの見通し) - 録音、録画、記録の方法とその理由、使われ方。
(クライエント・保護者は、自分でそれを見ることが出来るのか)
- セラピストの背景、理論的立場、自分の受けた訓 練・教育についての説明なども含まれます。
(3)ここで重要なのは、インフォームドコンセントは、初回一回だけ説明し同意を得ればいいというものではない、ということです。セラピー開始後も、クライエントや保護者からの質問に随時しっかりと答え、経過及びその経過における評価についても必要であれば開示していくことも義務として、インフォームドコンセントの中に含まれており、連続的なものだということです。保護者から寄せられる苦情の中身を見てみると、初回のインフォームドコンセントへの不満というよりも、むしろセラピーを重ねていくプロセスの中で、セラピストに質問をしても納得出来る答えが得られないことへの疑問の方が多いように感じます。そういった、質問や疑問にしっかり答えられるためにも、自らの実践をより深めていくことが大切になってきます。 - 上記のことが三つ目の、「常に自らの力を向上させるべく努力をおこたらないこと」、つまり、スーパービジョンや定期的・専門的な様々な学習の必要性につながります。
自らが、何が出来て何が出来ないのか自分の力を認識し、力以上のことを引き受けない、抱えこまないこと、また誇大な効果の予測を宣伝しないことが大切です。 - 四つ目としては、社会人として生活する中では常にモラルや常識が問われますが、私たち人間の心に直接かかわる専門職としても、当然のこととして「あたりまえのルールを守る」ということがあります。
具体的には以下のようなことです。
- 仕事上知り得たことを外にもらさない(守秘義務)。
- 自分が所属している組織のルールに従うこと。
- 他の職種を批判することをしない。
- 音楽療法士同士で仕事を奪い合ってはならないこと、 等々。
本来、倫理というものは法律(外部規律)といったものではなく、自分たちの専門領域を守り、律するためのもの(内部規律・規範)であります。ただ単にこうしなければならないという、自分を縛りつける規則としてとらえるのは正しくありませんし、倫理綱領をマニュアルとして頭にたたきこんで、その通りに行動したから倫理的であるといった単純なものではありません。音楽療法士という専門職に携わる人間としてどうあるべきか、クライエントや同僚、他職種のスタッフらといかに関わるべきか、専門職としてのあり方が問われているのが、倫理なのです。
臨床心理士の村本詔司氏は、彼の著書の中で「倫理について語る資格というのは誰にもないであろう。誰にもあるのは、倫理について語る必要性である。」と語っています。是非、職場の同僚と、または大学や専門学校等での授業において、我々の身近な事として倫理について語っていただけることを、倫理委員一同願っております。そして、我々も今後さらに吟味を重ね、よりよい手引書改正につなげていきたいと考えております。
研究における同意書について
事例研究および事例にかかわる臨床研究、アンケート調査等につきましては、研究倫理上、細心の注意を払う必要があります。 日本音楽療法学会では、これらの研究を発表する際には、同意書の提出が義務づけられています。本来は音楽療法の開始時に目 的や方法を示して同意を得てから始めるわけですが、今回は、発表などの同意の取り方について、時系列的に示します。同意書 は次の手順でとって研究発表に臨んでください。
事例研究および事例にかかわる臨床研究の場合
- いつ、どこで発表するか
- 目的、演題名、対象者などを明記
アンケート調査などを実施する調査や研究の場合
- アンケートの趣旨説明文
- アンケート内容の編集
→それに同意してもらえた対象者にのみアンケートを実施する
※アンケート記入を、決して強制してはならない